“Interesting”は誉め言葉じゃない?
- エディ先生
- 15 時間前
- 読了時間: 8分
更新日:14 時間前

AIによる翻訳や通訳の精度は、ここ数年で驚くほど向上しました。英語から日本語への翻訳であれば、会議の内容を理解するだけなら十分実用的なレベルに達しています。しかし、国際ビジネスの現場では、言葉の意味が分かることと相手の真意を理解することは必ずしも同じではありません。
例えば、アメリカ人の上司から、"Interesting."と言われたら、それは本当に「興味深い」という意味なのでしょうか?あるいは、"That's a good point."と言われたら、自分の提案が採用されたと考えてよいのでしょうか?
実は、そうとは限りません。これまで、通訳者として数多くの日米企業の会議に参加し、また米国企業で経験したマネジメント職で微妙なニュアンスを学んできました。その中で感じたのは、ビジネスの世界ではアメリカ人も必ずしもストレートに本音を言わないということです。
日本では昔から、「日本人は腹芸を使い、本音を表に出さない」と言われてきました。しかし、アメリカで長年仕事をしてきた私の感覚では、ビジネスの場面に限れば、むしろアメリカ人の方が言葉を慎重に選び、本音を直接表現しないことも少なくありません。特に管理職や経営層になるほど、その傾向は強くなります。
なぜなら、彼らの目的は「本音をぶつけること」ではなく、「人間関係を維持しながら結果を出すこと」だからです。AIは言葉を翻訳できます。しかし、その言葉の裏にある意図や力関係、相手への配慮まで読み取ることは、その度にプロンプトで指示しないとできません。これからの通訳者、そしてグローバルビジネスに携わる人に求められるのは、単なる語学力だけではなく、相手が本当に伝えたいことを理解する力です。
今回は、私がこれまでの経験で見てきた、アメリカ人、特にリーダーシップ層のビジネスパーソンがよく使う“本音を直接言わない表現”について紹介します。
なぜアメリカ人は賛成できない時でも遠回しに話すのか
1. 提案や意見を評価する場面
提案内容に賛成できなくても、まず提案してくれたこと自体に感謝する
他の出席者の前で提案者の面子をつぶさないよう配慮する
その上で、自分の考えや方針は明確に説明し、最終的には組織として望ましい結論に導こうとする
2. 部下の仕事を評価する場面
結果が期待を下回っていても、まず努力や期限内の完了に感謝する
人前で叱責せず、1対1の場で改善点を伝える
良かった点を認めたうえで課題を指摘し、改善方法を示し、最後は本人の自信を損なわない形で話を終える
3. 営業提案やプレゼンを断る場面
購入する気がなくても、提案や準備への感謝を示す
製品やサービスの良い点には触れる
購入できない理由は冷静に説明する
今後の取引の可能性を残しながら関係維持を図る
こうした背景を理解していないと、アメリカ人の発言を文字通りに受け取ってしまい、会議後に「話が違う」と感じることがあります。
判断が難しい英語表現と本心
以下はアメリカ人の発言例と、裏側に隠された本心です。もちろん、個人差や状況の違いがあるため、発言者の職位、周囲との関係、声のトーン、表情などで結果は異なります。後段で説明しますが、これらの発言の後、何を話すかで、ポジティブか、それともお断りかの判断材料になります。
英語表現 | 直訳 | 本心 |
It’s an interesting approach | それは面白い考え方ですね | 良いけど、今一つだなあ(おそらく不採用) |
Appreciate your suggestion | 提案に感謝します | ありがたいけど、ちょっと違うような (おそらく不採用) |
That’s certainly one way to look at it | それも一つの見方ですね | それはあなたの考えで、私はそうは思わないけど (相手の意見に反対の立場) |
You raise a good point | 良いポイントですね | 意見は一応聞いておく (おそらく不採用) |
That’s something to consider | 検討事項ですね | 考慮はする (でも現時点では採用しない) |
発言が微妙な場合、Noなのか、Yesで採用なのかを判断する基準とは?
①「次にやること」「数字」「期日」を語る → Yes
"Will you provide us with the quote?"(見積もりを出していただけますか?)
"All right, what is the next step?" (はい、では次のステップは?)
"Now, can we discuss the budget?" (では、予算の話をしませんか?)
② 抽象的に評価する、断定しない表現をする → 限りなくNo
"That’s interesting, we can discuss that next time." (興味深いですね、次回の話題にしましょう。)
"We can take it offline and review it internally." (別途社内で検討します。)
本当に見るべきなのは「何を言ったか」ではなく「次に何を聞いたか」
アメリカ人との商談や提案会議では、相手が口にした評価そのものよりも、その後にどのような質問をしてくるかに注目する必要があります。例えば、日本人は厳しいコメントを受けると、「これは断られたな」と考えがちです。しかし、アメリカのビジネスでは必ずしもそうとは限りません。
“Yes”の可能性が高いケース
たとえ、「価格が高い」「現状の仕様では要件を満たせない」「競合製品と比べて機能が不足している」といった厳しい指摘を受けたとしても、その後に、「価格を下げる方法はあるか」「当社向けに仕様を変更できるか」「納期を短縮できるか」「導入事例を見せてもらえるか」といった具体的な質問が続くのであれば、相手はまだ検討を続けています。
むしろ、それは条件付きの“Yes”であることも少なくありません。本当に興味がなければ、詳細な条件確認に時間を使う必要がないからです。
“No”の可能性が高いケース
逆に、「素晴らしいプレゼンでした」「とても興味深い提案です」「製品の完成度は高いですね」といった好意的なコメントが並んでも、その後に具体的な質問が出てこない場合は注意が必要です。
特に、価格、支払条件、保証内容、納期、契約条件など、実際の導入に必要な話題に進まない場合は、すでに結論が出ている可能性があります。
また、“Given our timeline...”や“Given our current priorities...”、“At this stage...”といった表現が出てきた場合も、実質的には見送りや不採用を意味していることが少なくありません。もちろん将来的な可能性を完全に否定しているわけではありませんが、少なくとも現時点では“No”に近い判断と考えるべきでしょう。
通訳は「生き物」である
ただし、通訳や国際ビジネスの現場は生き物です。すべてを単純に“Yes”と“No”に分類できるわけではありません。例えば、“That’s interesting.”や“That's a good point.”といった評価的なコメントが続いた後で、“First, could you send us a quote by the end of this week?”(まずは今週中に見積もりをいただけますか)と依頼されることがあります。この場合、相手はまだ購入を決めているわけではありません。
しかし、少なくとも次の検討段階へ進もうとしています。つまり、これは“No”ではなく「条件付き“Yes”」です。そして見積もりや契約条件が期待に合えば、正式な“Yes”へ発展する可能性があります。
アメリカ人がビジネスで遠回しな表現を使う理由
アメリカ人は率直で、本音をストレートに伝えるというイメージを持つ人は、かなり多いのではないでしょうか。確かに意思決定そのものは比較的明快です。提案を採用するのか、しないのか。昇進させるのか、させないのか。ビジネス上の判断は日本よりもドライに行われる傾向があります。
しかし興味深いことに、その判断を相手に伝える際には、非常に丁寧な表現を使うことが少なくありません。例えば、提案を採用しない場合でも、「良い提案をありがとう」、「興味深い視点だと思います」、「検討する価値はあると思います」といった前向きなコメントを添えることがよくあります。
これは単なるお世辞ではなく、相手への敬意を示しながら関係を維持するためのコミュニケーションです。日本でも同様の傾向はありますが、アメリカの場合は、実質的には“No”であっても、それが分かりにくいほど丁寧な表現で伝えられることがあります。
また、組織の中では、職位が高くなるほど感情をコントロールすることが求められます。特に経営層や管理職にとっては、冷静であること、感情的にならないこと、相手の尊厳を傷つけないことがリーダーシップの一部と考えられています。そのため、部下の提案を却下する場合でも、「それは違う」、「そんなことも分からないのか」、といった言い方はほとんどしません。
むしろ、「この部分は非常に良いと思う」、「別のアプローチも検討してみよう」、「現時点では優先順位が異なる」といった形で、相手の面子やモチベーションに配慮しながら方向修正を図ります。
私がアメリカ企業で見てきた限りでは、部下を人前で怒鳴ったり、感情的に叱責したりする管理職は、リーダーとして高く評価されません。そのような行動は、問題解決ではなく感情の発散と受け取られ、"immature"(未熟である)あるいは"unprofessional"(プロフェッショナルではない)と評価されることさえあります。
つまり、アメリカのビジネスパーソンは「本音を言わない」のではなく、「本音を伝える際の言い方には細心の配慮をする」と言った方が正確かもしれません。
だからこそ、表面的な言葉だけを聞くのではなく、その発言がどのような文脈で出てきたのか、そしてその後にどのような質問や行動が続くのかを観察することが重要なのです。
通訳者に求められる役割
通訳者は、単に発言を正確に置き換えるだけの存在ではありません。誰が発言しているのか。どのような立場で話しているのか。何を懸念しているのか。そして、その発言によって会議がどこへ向かおうとしているのか。そうした背景を理解したうえで、話し手の意図を相手に最も近い形で伝えることが求められます。これからのAI時代において、人間の通訳者の価値は「言葉を訳す能力」以上に「意図を読み取り、意思疎通を成立させる能力」にあるのではないでしょうか。
by エディ先生
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