昭和のビジネス用語
- エディ先生

- 4 日前
- 読了時間: 6分

Z世代(Generation Z)の通訳さんが、日本企業の幹部会議に入ると、ときどき意味不明な日本語に出会うことがあります。プロセスの議論をしているはずなのに、突然こんな「昭和チックな」表現が飛び交うのです。
「蕎麦屋の出前じゃないんだから」
「この方針は譲れない、経営理念の一丁目一番地だから」
「ちゃんと先方に仁義を切ったのか?」
初めて聞く若い通訳さんは、「はぁ?何をおっしゃっているのか…?」と一瞬フリーズすることもあるでしょう。
実は、日本企業の経営陣やシニア幹部が部下に指導や説教をする場面では、数字やロジックよりも“心構え(mind-set)”や“やる気(motivation)”に話が向かい、発言内容がどうしても精神論的になりがちで、昭和の比喩や慣用句のオンパレード(*)となります。
*「オンパレード」も古いですが、実は英語が語源で、軍隊の閲覧式などに整列する様を表します。俳優などが並ぶことにも使いますが、あくまで「人が並ぶ状況」で使います。日本語はいわば拡大使用で、あらゆる事や物が次々に出たり並んだりする様子に対して幅広く使います。
今回は、おそらくZ世代の通訳さんが戸惑うであろう 「昭和のビジネス用語」 の意味と英訳を紹介します。
① 「蕎麦屋の出前」
昭和時代の家庭では、昼時に近所の蕎麦屋へ出前を頼むことがありました。しかし店も忙しい時間帯なので、約束の時間を30分過ぎても届かない。
催促の電話をすると、蕎麦屋は必ずこう言います。「すみません、今出ました!」
つまり、まだ終わっていない、または取り掛かってもいない作業を言い訳”excuse”で、「もうやってます」と伝える無責任さを揶揄した表現です。
〈例〉
「お前の“もうやっています”は、いつも蕎麦屋の出前じゃないか」
〈英訳〉以下のどれでも使えます。
• “You mean, ‘Check is in the mail’?”
• “Your promise has never been delivered on time.”
“Check is in the mail”は、支払いが滞る相手に督促すると、ほぼ必ず返ってくる常套手段の表現。「小切手はもう郵送しました」と嘘をついて時間を稼ぐという、かなりカジュアルな慣用句です。「蕎麦屋の出前」同様、アメリカでも支払いを小切手でしていた時代に「あるある」でした。今でも即通じますが、Z世代のアメリカ人は、理解できてもピンとこないかもしれません。
② 「勝ち馬に乗る」
意味はシンプルで、優勢な側に便乗すること。
〈例〉
「この種の製品は他社も市場でかなり伸びている。当社も今こそ勝ち馬に乗るべきだ。」
〈英訳〉
“As the sales of this product line-up is soaring by competitors in the market, we should jump on the bandwagon.“
これは「演奏するバンドが乗る馬車に一緒に飛び乗って盛り上がる」という昔ながらの慣用表現です。
③ 「鉛筆なめなめ」
この表現には3つの異なる意味があります。(1)と(2)はあまり使われませんが、知っておくと良いでしょう。
⑴ 数字をごまかす
改ざんは不正行為なので論外。ちなみに英語では“fudge the numbers”です。
⑵ 熟考する
提出書類を何度も書き直して完成度を高めるという意味。 英語では“refine”、“fine-tune”、“polish the document”などが使えます。
⑶ 帳尻合わせ(最も頻繁に使われる意味)
予算編成などで、売上を少し上げる、経費を少し下げるなど、部署間で細かい数字を調整して最終的な目標数値に合わせることを意味します。
〈例〉
「営業利益の不足分は、各部署間で鉛筆なめなめして、提出だな。」
〈英訳〉
“For the shortfall of the operating profit target, we would like the teams to balance the numbers for submission.”
④ 「一丁目一番地」
語源には諸説あります。(1)都市の中心地の住所、(2)国会の最前列の席、どちらも意味は同じで、「物事の最重要点」を表し、最優先課題を意味します。とても大げさですが、シニア幹部は頻繁に使います。
〈例〉
「顧客満足は当社の経営理念の一丁目一番地だ」
〈英訳〉
“Customer satisfaction is the top priority of our corporate philosophy.”
⑤ 「建付け」
もともとは建築用語です。「建付けが良い」というと扉や窓が枠にきちんとはまっている状態。締まり具合を表す表現です。ビジネスでは「制度・仕組み・フレームワーク」を意味します。
〈例〉
「社内規定の建付けでは、そのやり方は認められない」
〈英訳〉
“According to the framework of our company policy, that process is not acceptable.”
⑥ 「仁義を切る」
語源は、任侠の世界の初対面の挨拶です。ビジネスでは単なる最初の挨拶だけはなく、「長年築き上げた関係に対する礼儀として、相手に事前に筋を通す」という意味で使われます。
例えば、10年付き合った取引先から、別のベンダーへ今回は変更する場合、ビジネスライクに決定を伝えるのではなく、事前に相手先に、礼節をもってお知らせし、ご理解いただくことを意味します。
〈例〉
「A社とは長い付き合いだ。きちんと仁義を切らないといけない」
〈英訳〉
“We must give them a heads-up out of respect for our long relationship with A.”
⑦ 「五月雨式」
「さみだれ」とは梅雨の雨。断続的に降り続く様子を表します。ビジネスでは、一度で連絡をできずに、ばらばらと何度も小出しで追加連絡してしまうことを意味し、通常それをお詫びする時に使います。
〈例〉
「五月雨式のご連絡で大変恐縮ですが…」
〈英訳〉
“My apologies for sending multiple messages.”
⑧ 「握る」
ビジネスでは、非公式の合意を意味します。契約ではなく、あくまで口頭で了解を取っている状態です。
〈例〉
「顧客とはちゃんと握っているんだろうな?」
〈英訳〉
“You’ve secured their commitment, right?”
⑩ 「ツルのひと声」
意見がまとまらない会議で、上位の偉い人の一言で決定すること。語源はことわざの「雀の千声 鶴の一声」で、雀の様に多くのつまらない意見よりも、鶴のような、大きく響き渡るひと声で決めることを比喩したもの。
〈例〉
「最後は社長のツルのひと声で決まった」
〈英訳〉
“A single word from the boss settled the decision.”
⑪ 「腹をくくる」
武士が戦場に向かう前に、帯を締め直して覚悟を決めたことが語源です。
〈例〉
「もう腹をくくって予算を受け入れろ」
〈英訳〉
“Make up your mind and commit to the budget.”
通訳の腕が試される瞬間
日本企業の会議では、議論が白熱すると、「数字 → ロジック → 精神論 “mindset-based approach”」という流れになることがよくあります。すると日本語は急に「ことわざ」、「昭和の比喩」、「情緒的な表現」で埋め尽くされます。
しかし、そのまま直訳すると、アメリカ人にはほぼ伝わりません。だからこそ通訳は、意図を読み取り、文化を翻訳し、ビジネス英語に置き換える必要があります。
ここがまさに、通訳者の腕の見せどころですね。
by エディ先生
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いわゆる世代間ギャップによる用語の違いですね!
逆に若い通訳さんの言葉が年配の方に伝わらないこともきっとあるのでしょうね。
面白い切り口で楽しく勉強できました。ありがとうございます。