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通訳者が悩む日本人トップの定番スピーチ





「あ~、Good morning. My name is Tanaka.  My English is very poor, so, I will speak in Japanese.」


アメリカ人の聴衆が一斉にやり場のない苦笑いを浮かべる瞬間です!日本の英語教育で”poor”は、“下手”と教えるのですが、少々品位にかける形容詞です。


私自身のキャリアで何百回と日本人トップのスピーチを通訳してきましたが、この「過剰謙遜テンプレート」から始める方が本当に多いこと!読者の皆さんの中に英語でスピーチをする機会がある方がいらしたら、ぜひお願いします。


Good morningの後、すんなり日本語で本題に入ってください!


でも、どうしてもご自身の英語力を謙遜したいのであれば、日本語で「まだ、あまり英語が堪能ではないので、日本語で失礼します」とおっしゃってください。通訳さんが”Since I am still in the early stages of learning English, allow me to speak in Japanese”(まだ、英語の勉強を始めたばかりなので、今日は日本語で失礼します)と訳してくれますから。


今回は、アメリカ人社員が聞きながら、心の中で「早く終わってくれ……」と思うスピーチの「あるある」と、その分析、お勧めの訳出についてお話します。


 

アメリカ人の前で頻繁に聞く日本人社長の就任あいさつ例


「皆さん、おはようございます。このたび、代表取締役社長に就任いたしました田中でございます。本日はこのような貴重なお時間を頂戴し、誠にありがとうございます*1


まず初めに、これまで当社を支えてこられた諸先輩方、そして現場の皆さんの日々のご尽力に、改めて敬意を表したいと思います。私自身、入社以来30年以上にわたり、営業畑一筋で会社に貢献*2させていただきました。その中で強く感じておりますのは、環境の変化が目まぐるしい現代においては、従来の延長線上ではなく、変革と挑戦を続けていかなければならない*3ということです。


現在、我々を取り巻く業界の競争は激化し、当社の製品は、価格、性能の両面で他社と熾烈な戦い*4を続けております。こうした中で、DXを加速し、イノベーションを創出し、シナジーを最大化*5していくことが、今後ますます重要になってまいります。固定観念にとらわれず、スピード感を持って、未来志向で取り組んでいく*6必要があります。


私は常々、現状維持は後退である*6と申し上げております。これからは、社員一人ひとりが当事者意識を持ち、高い視座で、自ら考え、自ら動いていく*7ことが求められます。


最後はやはり“やり切る力”が結果につながる*8のだと思っています。楽な仕事はありません。しかし、だからこそ成長があります。ぜひ皆さんには、失敗を恐れず、チャレンジ精神を持って、One Teamで次のステージに向かって*9いただきたいと思います。


今後とも、どうぞよろしくお願いいたします」

 

日本人の定番スピーチが、なぜアメリカ人に伝わりにくいのか?


  • 信念や抱負を並べがち

アメリカ人社員に日本人トップが就任挨拶などをする場合、逐次通訳されるケースが多いため、自分が話せる時間は半分に制限されますが、それでも「自分の信念や抱負は全て言いたい」という気持ちが強く、目的語のない日本語、「成長、努力、継続」などを一つの文に多数羅列してしまいます。これを英語に直訳すると、すべての単語が抽象的な「名詞」となり、「何の成長?」「誰が何を努力する?」「何を継続するの?」とアメリカ人社員には、新しいリーダーがいったい会社をどのように経営したいのか、社員に何を求めているのかが伝わらなくなるのです。


  • 訓戒が多め

日本人トップのスピーチは往々にして、「危機感を持て」のような社員を戒める表現が多くなり、普段、社員を鼓舞するスピーチに慣れているアメリカ人には、ネガティブに伝わりやすいのです。


  • 「何を」が明言されない

「変革」「挑戦」などのビッグワードや、DX、シナジーなどの流行のカタカナ用語は「何を」を具体化しないと、社員は何をすべきなのかのかがわからないため、訳出に目的語の追加が必要です。


  • 受け身表現が与える印象

日本語スピーチは受動態が多用され、ポジティブ感覚にかけることが多いため、直訳すると、トップのスピーチとしては、受け身でネガティブな響きになります。


まとめると、アメリカ人トップのスピーチは、社員に高揚感を抱かせる意図が深く、一方、日本人トップのスピーチは「慎重」「着実を重要視し過ぎてその場の雰囲気が盛り上がらないことがよくあります。


以下、前述の日本語の挨拶文で番号を付けた各項目について解説します。


*1 「本日はこのような貴重なお時間を頂戴し、誠にありがとうございます」

多忙な時間を使って参加してくれたこと、悪天候で「お足元の悪い中」など過剰な「お礼」は英語を聞く聴衆には響かないので、シンプルに ”I am pleased and excited to meet all of you today.”で十分です。「前説をできるだけ短く」して、「聴衆を飽きさせない」ことです。


*2 「営業畑一筋で会社に貢献」

「〇〇一筋」は職人の仕事には合いますが、営業や開発に使うと、やや古い印象を与えがちです。アメリカ人に自然に評価される表現にするには、「長く勤めたこと」よりも、継続して成果を上げてきたこと、キャリアを積み重ねてきたこと、専門性を深めてきたことに焦点を当てるのがポイントです。例えば、“I have dedicated more than thirty years to building the company’s sales business.”のように、自然に表現できます。


*3 「従来の延長線上ではなく、変革と挑戦を続けていかなければならない」

これも日本人トップの定型文ですね。部下に対して「危機感をあおる」ことは定番です。直訳してもこれも通じない。もし意訳するなら、”Let us move beyond ‘business as usual’ and think out of box to attempt new approaches.” (「いつも通り」から抜け出して、思いもつかない方法を考え出して、新しいやり方を試みようではありませんか)とよりポジティブな表現にするとアメリカ人に伝わります。


*4 「他社と熾烈な戦い」

ビジネスを「戦い」と表現するのは日本人の特徴です。アメリカ人にとってビジネスはbattle「戦い」ではなく、competition「競争」です。仕事で、「戦う」「打ち勝つ」「凌駕する」などは直訳してしまうと、アメリカ人は引いてしまいます。私のアメリカでの経験では、他社へのプレゼンや外部に出る資料の翻訳をする場合、他社を打ち負かすような表現は、「Anti-Trust Law独占禁止法」などに微妙に抵触し、訴訟リスクがあって危険であることから、法務部から常にほかの表現に修正するように求められました。


*5 「DXを加速し、イノベーションを創出し、シナジーを最大化」

DX, AI, イノベーション、シナジー……日本のトップは流行の横文字が大好きなようです。これらを使うと先端を走っているような気がするのでしょう。でも、目的語がないと英語では理解できません。またDXという略語は、IT担当者以外はあまり使わないので、”Digital Transformation”と表現してください。原稿を事前に頂ける場合は、ご本人に目的語は何かを質問したほうが良いですね。ぶっつけ本番であれば、あたりさわりのない範囲で具体的に、”...accelerate our digital transformation in the business process, develop innovative products (services), execute synergetic efforts with our partners...”など目的語を添えましょう。


*6 「固定観念にとらわれず、スピード感を持って、未来志向で取り組んでいく」「現状維持は後退である」

言い方は違えど、これらは前段ですでに異なる表現で言及しており、英語表現をそのたびに変えないと冗長的に聞こえてしまいます。スピーチの通訳は、同じことを意味する異なる日本語の言葉に対して、複数の英語表現を即座に出せることが秘訣です。


*7 「当事者意識を持ち、高い視座で、自ら考え、自ら動いていく」

これも抽象的かつ多用される表現です。「当事者意識」は”ownership“が通じやすいですね。「高い視座で、自ら考え、自ら動いて」は、英語では「何を期待しているのか」に分解して意訳するのが自然です。日本語の意図は恐らく、「目先だけでなく広い視点を持て」「指示待ちになるな」「主体的に動け」ですよね。これを英語にするなら、”Think proactively and take initiative.“などが、短くてアメリカ人にも自然に伝わりやすいでしょう。


*8 「やり切る力”が結果につながる」

「やり切る力」を直訳すると、根性、忍耐、継続など、「精神論」になってしまい、そのまま訳しても伝わりにくいものです。英語では、”persistence”、”follow-through”、” execution”、” commitment”などがわかりやすい表現で、意訳するなら、”In my experience, long-term success comes from people who stay committed and follow-through.”です。


*9 「チャレンジ精神を持って、One Teamで次のステージに向かって」

論理的にわかりやすい日本語に訳すと、チャレンジ精神をもって」→ 積極性・挑戦・前向きさ、「One Teamで」→ 協力して・部門を超えて、「次のステージに向かって」→ 次の成長段階へ・未来へとなりますから、意訳は、“Let’s continue working together, take on new challenges, and move the company forward.”ぐらいが妥当ですね。


 

アメリカ人にも伝わるスピーチの訳し方


最後に、原文に忠実で、アメリカ人の聞き手に飽きられない訳出の例です。


Good morning, everyone.


My name is Tanaka, and I have recently been appointed President and CEO of the company. I am pleased and excited to meet our team members today.


First of all, let me express my sincere appreciation to everyone who has supported this company over the years, especially those working on the front lines every day. Over the past 30 years, I have spent my career in sales, helping grow the business and contributing to the company’s development. Through those experiences, I have become convinced that in today’s rapidly changing environment, we can hardly stay on business as usual. We must continue pursuing the transformation of our business processes and taking on new challenges in our work.


Competition in our industry is becoming increasingly intense, and our products face fierce competition in both price and performance. In this environment, it will become even more important for us to accelerate the digital transformation of our work processes, drive innovation in product development, and strengthen collaboration across the organization. We need to move quickly, think beyond conventional approaches, and stay focused on future development.


I often say that standing still means falling behind. Going forward, each employee will need to have ownership of the tasks and projects beyond their immediate responsibilities, take initiative, and act proactively with a broader perspective.


In the end, I believe results come from staying committed and following through. There are no easy jobs, but it is through challenges that we grow.


I encourage everyone to work together, take on new challenges without fear of failure, and help move the company forward as one team.


Thank you again for your continued support, and I look forward to working together with all of you.


通訳者の皆さんが普段何気なく訳出している「日本人トップ」のスピーチも、英語で聞く聴衆の人たちの側に立つと、「う~ん」と思うことに気づくはずです。常にわかりやすい意訳ができるような練習をしてみてはいかがでしょうか?



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