日本式説教 vs. アメリカ式回答 ― 通訳者が悩む「直訳か意訳か」問題
- エディ先生

- 3 時間前
- 読了時間: 5分

アメリカで企業買収をした日系企業の現地オフィス。そこでよく見られるのが、日米企業文化の衝突です。特に困るのが、会議での通訳。日本人上司の叱責を前にして、通訳者は必ず悩みます。
「これをそのまま直訳すべきか?それとも、少しソフトに意訳すべきか?」
今回は、実際によくある2つの場面を紹介します。
1. 日本人上司の「説教」は、アメリカ人にどう聞こえるか
会社の業績が悪化したとき、日本人上司がとりがちな行動には、ある共通パターンがあります。(勿論、文化の違いを理解して配慮をされている幹部の方も少なくありませんが。)
長時間にわたって部下を叱責する
ときには複数の社員の前で指摘する
内容は「姿勢」「心構え」など精神論が中心
例えば、よく聞くのはこんな言葉です。
「危機感がない」
「やる気があるのか」
「詰めが甘い」
「責任感がない」
これらは、数字や行動のミスの指摘というより、部下の姿勢(attitude)や心構え(mindset)を正そうとする発言です。日本ではよくある「叱咤激励型」の指導ですが、アメリカ人社員にはかなり違った印象で受け取られてしまいます。
アメリカ企業で同様の業績悪化が起きた場合、上司の指導は通常次のような流れになります。
結果(数字)の確認
原因の特定
改善アクションの提示
誰がいつまでに何をするかの明確化
つまり、精神論ではなく現状に対応する「行動計画」が中心です。そのため、日本人上司の説教を聞いたアメリカ人社員は、次のように感じがちです。
「これは個人攻撃では?」
「感情的になっているのでは?」
「結局、何をすればいいの?」
この状態で通訳が直訳してしまうと、上司の真意がまったく伝わらないこともあります。
日本人上司の発言:直訳 vs 受け入れやすい意訳
日本語 | 直訳(そのまま訳すと…) | 受け入れやすい意訳 |
君はこの状況に対して危機感が欠けているな | You aren't responding urgently to this situation. | We need to approach this situation with a much stronger sense of urgency. |
本気度が全く見えないな | I don't see any seriousness from you. | I’d like to see stronger commitment and execution from the leadership team. |
この数字では話にならない、やり直しだ | These numbers are unacceptable. Do it again. | These results are significantly below expectations. I would like you to revisit the plan and come back with actionable measures. |
君は詰めが甘いから、こういう失敗をするのだ | You failed because you didn't pay attention to details. | We need to ensure a more thorough review and stronger attention to details to avoid issues like this. |
そうやって言い訳ばかりしているから結果が出ないんだ | You keep making excuses, and that's why you don't get results. | Rather than focusing on constraints, let's concentrate on what actions we can take to improve the results. |
他人事のように言うな、もっと責任感を持て | Don't talk like it's someone else's problem. Be more responsible. | I'd like to see stronger ownership of this issue from the team. |
もちろん、どこまで意訳してよいかは通訳者の間でも議論があります。私自身は、社内通訳の立場では、「正確さ」よりも「結果」を重視すべき場面もあると考えています。
日本には「叱咤激励」という言葉があるように、愛情を持って厳しく叱る、という文化です。しかし、このニュアンスは、部下であっても相手をリスペクトしなければならないアメリカ人には伝わりません。日本人上司の叱責が、愛情をもって「良くなってほしい」という意図で発せられたとその場の空気で通訳者が感じ取った場合は、少し表現を調整することで、上司の本来の意図を伝える助けになる場合もあるのです。
通訳者向け「無難な説教フレーズ」
日本企業でよく耳にする叱責の言葉を英語にするときの、ひとつのコツがあります。 それは”You”で始めないこと。代わりに “We”、“The team” を使うと、批判ではなく改善提案として伝わります。
x You don’t have a sense of urgency.
〇 We need to have a stronger sense of urgency.
〇 The team needs to approach this with greater urgency.
2.説教されたアメリカ人の「ポジティブ回答」
もう一つ、日米の文化差がはっきり出る場面があります。それは、叱られたときのアメリカ人の反応です。
日本人部下の場合、典型的な流れはこうです。
まず謝罪
軽く事情説明
「今後気をつけます」で締める
ところが、アメリカ人の反応は全く違います。長い説教を受けたあと、こんな返事が返ってくることがあります。
“Thank you for your feedback. Your advice is extremely valuable.”
直訳すると、「ご意見ありがとうございます。あなたのアドバイスは大変貴重です。」
この瞬間、日本人上司の顔が曇ります。「はぁ?何、その上から目線」と感じてしまうことも少なくありません。
なぜこんなギャップが起きるのか
日本人上司の期待: 日本では、まず謝ることが誠意と考えられます。謝罪 → 反省 → 改善という流れです。
アメリカ人部下の心理: 一方アメリカでは、安易な謝罪は
能力不足の認定
信頼低下
評価ダウン
につながる可能性があります。そのため、批判もポジティブに受け止める姿勢を示すことが一般的なのです。
通訳者のジレンマ
「正確さ」 vs 「関係維持」
もしあなたが通訳者だったらどう訳すでしょうか。直訳すれば正確ですが、その場の空気が悪化する可能性もあります。私ならこう訳します。
「すみません。大変貴重なご指摘をいただき、ありがとうございます。」
直訳ではありませんが、誤訳でもありません。ポイントは3つです。
「すみません」で受け止める姿勢を示す
“feedback”を「ご指摘」に置き換える
感謝を文末に持ってくる
この小さな調整だけで、日本人上司の受け取り方はかなり変わります。
意訳は「気配り」か、それとも「誤訳」か
もちろん、意訳は簡単ではありません。
その場の空気、
発言者の性格、
聞き手の心理。
すべてを瞬時に読み取る必要があります。しかし、もし通訳の仕事が単なる正確な翻訳だけなら、この仕事は近い将来、AIに置き換わる可能性があります。人間の通訳が持つ価値は、言葉の裏にある「意図」と「感情」を読み取る力にあります。
文化の違いを埋めるのは、語学力だけではありません。それは、通訳者の人間力なのです。
あなたは、どんな通訳者を目指しますか?
by エディ先生
〈エディ先生へのご質問募集中!〉
記事についてのご質問や、通訳、英語に関するご質問などがありましたら、下記コメント欄もしくはフォームよりお寄せください。
〈ブログ更新のお知らせをメールで受信できます〉
プロフィールページの右上にある「フォローする」をクリックしてメールアドレスをご登録ください。更新情報はXやFacebookページからもご覧いただけます。




コメントありがとうございます。日米企業文化の違い第一弾です。これからもこの分野を広げて行く予定です。ご要望ありましたらお気軽にリクエストください♪
あるあるのシチュエーションですね。参考になります!