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【CPM入門(1)】クリティカルパス法(CPM)とは? ―― 巨大プロジェクトの現場で学んだ本当の力

更新日:2 時間前




最近、プロジェクトマネジメントの手法を解説して欲しいという要望を何件かいただきましたので、今回は、建設工事などで使われるクリティカルパス法について解説します。


「クリティカルパス法(Critical Path Method:CPM)」とは、各工程(タスク)の所要日数と、タスク同士のお互いの依存関係(dependency)をロジックで結び、プロジェクト全体を並べたときに最も長くかかる経路=最長経路を特定する手法です。この最長経路こそが「クリティカルパス」であり、ここに含まれるタスクのどれかが1日でも遅れると、全体の完了が遅れるという、極めて重要な意味を持っています。



「Critical」の本当の意味


「critical=クリティカル」という言葉は、単に「重大」という意味ではありません。医療では「危篤状態(critical condition)」、原子力では「臨界状態(critical state)」というように、一線を越えると状況が一変する極限状態を表す形容詞です。


つまり、クリティカルパスとは、「プロジェクト全体の成否を左右する“限界ライン”」とも言える存在なのです。パス(path)は道、経路を意味し、全工程をつないだ「道筋」を指します。



建設工事における典型的なクリティカルパス


一般的な鉄骨造建設工事におけるクリティカルパスの一例は、次のようになります。


この流れのどこか一つでも遅れれば、完成日は必ず後ろにずれ込みます。例えば現在着工中の建物の竣工引渡し予定が2030年4月1日だとすると、基礎工事で5日間遅れた場合は、何らかの回復措置を講じない限り引渡しは2030年4月6日となります。つまり、今から4年後、何日遅れるかが明確に可視化されるのです。



CPMは「遅れないための思考法」


CPMによる工程管理は、建設工事向けの専門技術ではありません。デスクワークのプロジェクト管理や、自宅リフォーム、イベント運営など、「絶対に期限を守りたい」あらゆる場面で使える管理手法です。特に、スケジュール管理が苦手な方にとっては、極めて有効な考え方ですね。今後、このブログでCPMの考え方と工程作成の方法を、何回かに分けて分かりやすく解説していきます。



私がCPMを学んだ現場:巨大テーマパーク建設プロジェクト


私がクリティカルパス法(CPM)を本格的に学んだのは、約25年前、某テーマパーク建設プロジェクトに主幹通訳として参加したときのことでした。このプロジェクトは、18の巨大アトラクション施設と、レストラン、小売店、道路、湖などを含む、4年間に及ぶ国家級プロジェクトでした。


参加企業は、日本の大手ゼネコンJV3社とその関連サブコントラクター各社、数十社に及ぶアトラクション機器ベンダー、アートディレクター、米国側のテーマパーク運営会社など、日米から集結した大規模チーム。まさに多国籍・多業種混成軍です。


概念設計開始時(1996年)、日本ではCPMという言葉自体ほとんど知られておらず、私もこのプロジェクトで初めてその理論に触れました。


米国側は、プロジェクトマネジメント用のソフトウェアを使い、関連する数十社を一元管理する方式を主張。一方、日本側ゼネコンは、Excelによる現場密着型管理を主張し、両者はなかなか折り合いがつかないまま、設計が始まりました。


結局、米国側はこのソフトウェアを導入して、日程を管理する専任のスケジューラー(Scheduler)を各工区に配置、毎週金曜日に現場工事の進捗会議を通じて日程管理を進めました。私はこの会議を3年間、現場で通訳したため、自然にその方法、理論を習得でき、その後の自身のキャリアに大きく役立ちました。



プロジェクト管理ソフトウェアの本当の威力


業務用のプロジェクト管理ソフトは、

  • 各タスクの開始日・終了日

  • 必要リソース

  • マイルストーン

  • タスク間の依存関係のロジック

を入力することで、ガントチャート(Gantt Chart)と呼ばれる表を自動生成します。


毎週、スケジューラーが集めた各タスクの進捗度合(%)をプロジェクト管理ソフトに入力すると、遅れがある場合は、それが即座に可視化されます。また、余裕期間(floatまたはslack time) がゼロになると、そのタスクのバーが赤色表示に代わります。これにより、「どの作業が危険か」がガントチャートを見れば一目で分かるのです。


タスクの遅れによって、余裕期間が無くなり、結果としてマイルストーンが遅れそうになると、週次のスケジュール会議で即座に是正策を議論します。また、目の前のマイルストーンをソフトウェア上でずらすと、4年先までの全工程が自動的に連動して遅れる形になり、開園日に間に合わないことが即座に判明します。


人間の力では、数百にも及ぶタスク、その下にぶら下がる何千ものサブタスクそれぞれの複雑な「依存関係」を毎週正確に追跡することはほぼ不可能です。ここで、ソフトウェアの真価が発揮されるのです。



なぜアメリカではスケジューラーが必要なのか


アメリカの建設プロジェクトには、日本のそれと異なる次のような特徴があります。

  • 設計(design)と施工(construction)を別会社が請け負うため、図面の精度不足や、連係ミスによる手戻りが多い

  • サブコン同士の関係が浅く、指示命令系統が複雑で明確でない

  • 遅延時のリカバリーには1.5~2倍の残業労務費など、高額な追加コストがかかる

  • 多数のベンダーが遠隔地にあるため、Excelでのコミュニケーションでは統括不能

  • 遅延時の責任の所在をめぐって頻繁に訴訟がおこるので、その対策として、すべての討議と決裁記録を厳密に保存する必要がある


このため、専任スケジューラー+高機能プロジェクト管理ソフトが必須となります。



日本のゼネコンが「Excelだけ」で管理できる理由


一方、日本の建設現場はまったく異なります。

  • 現場所長直下の課長クラスが、設計・施工・設備まで一括統括管理する

  • ゼネコンと各サブコンとの間に長年にわたる強固な信頼関係がある

  • 現場責任者が設計・施工のあらゆる分野の知識と経験を持つジェネラリストのリーダーである

  • 長年のプロジェクト経験値に基づく正確、精密な工程予測と不測の事態への対応策を持つ


その結果、Excel数十ページの工程表と、現場の管理力で、巨大プロジェクトを期限通り完遂してしまうのです。


実際、当時のテーマパーク建設では、日本のゼネコンは1996年の時点でコミットした開園日を1日もずらさず、5年後に本当に予定通り完成させました。世界でも極めて珍しい成功例とされています。


私はその時、心底こう思いました。「ゼネコンの底力、恐るべし。」

 


CPMは“理論”、日本の現場力は“経験の力”


CPMは、複雑なプロジェクトを論理的に制御するための最強の武器です。一方、日本の建設現場には、長年蓄積された経験、ノウハウがあり、同じ会社で長期育成された優秀な人材がリーダーシップを発揮して成功を収めています。どちらが優れているという話ではありません。重要なのは、

「ロジックと現場力の両立」

です。


CPMの具体的な作り方や、日常業務への応用については、今後数か月間で複数回に分けて少しずつ解説します。皆さんが特にお知りになりたいことがあれば、ぜひご遠慮なく下記コメント欄もしくはフォームからお送りください。



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