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逐次通訳のコツ ―「通訳者がペースを作るという発想」

更新日:2 日前




私は、同時通訳より、逐次通訳が得意で、そして大好きです。理由はいくつかあります。


1つ目は「臨場感」 

参加者の表情を間近で見ながら、生の声を聴いて訳せるのは逐次通訳ならではです。


2つ目は、会話や会議のペースを自分でリードできること

逐次通訳では、通訳者が「交通整理役」になります。


3つ目は、難しい場面ほど出番が多くなること

もめ事や、人事、法務などのデリケートな話題ほど逐次通訳が必要とされ、問題をうまく着地させられた時の達成感は格別です。


それでも、多くのベテラン通訳さんは、「同時通訳の方が楽」と言い、現場中心の新人さんは、「早く、ブースに入って国際会議の同時通訳をやりたい!」と憧れを抱くのもこれまた事実!


ただし、忘れてはいけないのは、ハイレベルな同時通訳を支えているのは、逐次通訳の基礎力だという事。ノートテーキング、リテンション、この2つの基礎技能を根源とする逐次通訳技術なしに、一流の同時通訳はできません。


今日は、その逐次通訳がぐっと楽しくなるコツをお話しします!



〈必読!!逐次通訳がしんどくなる本当の原因〉


皆さんが敬遠する、疲労困憊させられる逐次通訳とは、だいたい次の2つが原因で起こります。

  • 発言者のスピードが速すぎる

  • コメントが長く、短く切ってくれない 


その結果、ノートテーキングに膨大なエネルギーを使い果たしてしまうのです。


経験の浅い通訳さんほど、「ゆっくりと話してください」、「短く区切ってください」 とお願するのが怖くて、ご自分の力の限界が来てから、恐る恐る切り出すことになります。でもそれでは、「今頃言うなよ!」となり、完全に後手に回ります。


正当なお願いなのに、発言者に嫌な顔をされるし、頑張っているのに、評価まで下がってしまいます。これは、あまりにもったいない!



〈会話のペースは「通訳者」が作るという発想!〉


言うのは簡単、でも、どうすればいいのか?答えはシンプルです。


話す「速度」と「長さ」を発言者に決めさせない事です! 


……と書くと、「無理~、そんなのクライアントさんに言えません!」という悲鳴が聞こえてきそうですね。


でも、大丈夫。言葉でお願いしなくても、通訳者は自分でペースを作れます。


① 発言のスピードは自身の「訳出」で調整する

最初の発言者が早口だったら、その訳出を、あえて自分の通常の訳出よりも若干ゆっくりと出します。数分間この「徐行運転」を続けると、不思議なことに、発言者は無意識にその「遅めのペース」に引きずられていきます。でも、会議のリズムさえうまく保たれていれば、参加者には違和感はありません。


② 「間」を作らないことが最大の武器

理想的な会議のリズムは、発言が終わった瞬間に、間髪を入れずに訳出を始めることで生まれます。


例えば、「ということで、今日はまずは、この商品の販売戦略について討議をします。」と、日本語の「ます」が終わった瞬間に“First, let us discuss our sales strategy of this product---”と入る。「ます」と”First”の間に空白を作らない事が、実は、とても重要なんです。

  • 発言者は、通訳が入った時点で話を切らざるを得ない

  • 無意識のうちに、通訳者のスピードとリズムに合わせてしまう。


結果として、通訳者にとって疲れないペースが会議室に定着します。



〈通訳が会話のペースを作るための技術〉

さてここからが技術編です。

技術① 発言後の空白を無くすには?

コツは、最後までノートを取らない事。コメントの最後の文章や節は、ノートテーキングをやめて、リテンションだけで記憶に保持します。他の通訳さんの逐次通訳を聞いていて、訳出内容は素晴らしいのに、発言終了後に1~2秒ペンの走る音だけが響く瞬間、正直「ああ、もったいない」と私は感じます。 


その1~2秒の「間」って、発言者や参加者は、意外に、「イラっ」 とするんです。この一瞬の間が入ることで、発言者はペースを乱され、「忘れないうちに意見を言ってしまおう……」 と、さらに早口、長文になり、悪循環に入ります。


技術② コメントを短く切る方法

慣れない方は、息継ぎの瞬間を狙ってください。人は息を吸う0.1秒間、次の単語を発声できません。そこが、訳出の最初の単語を差し込むチャンスです。


お勧めの練習方法は、おしゃべりな友達との会話。相手が息継ぎする瞬間に、質問や、自分の話を入れてみてください。相手の話が止まれば成功、止まらなければ、あなたの「入り」がまだ弱いという事です(笑)



〈実践エピソード:5分もしゃべり続ける役員さん〉


昔、逐次なのに、5分以上話し続ける財務担当役員さんに遭遇しました。何十億円、何ミリオンドル……前年対比xx%など、数字だらけの長文。これは、正直「絶対に無理」です!


私は、叱られる覚悟で、息継ぎの瞬間、訳出を開始し、長文をバッサバッサ切りながら数往復。彼は何度かぶせても、話し続けるので、私もさらに大きな声でかぶせて、また止める。まさにバトルでした(笑)最終的に、周囲の方が、「専務、通訳さんいらっしゃるので、短くお願いします。」と助け船を出してくれました。


もちろん、怖い方にこの方法をいきなり使うのはリスクがあります。だからこそ大事なのが、自分の逐次通訳の質に絶対的な自信を持つことです。 


「正確で、わかりやすく、リズムが良い訳」を提供できれば、1時間もすれば、どんな偉い方でも、自然に短く話すようになります。しかも、ご本人は、「なぜ会議がスムーズになったのか」気づかないまま、会議はシャンシャンと終わるのです。



〈実例動画の紹介(2017年のインタビュー通訳)〉


解説ばかりしていても、「じゃあ、エディ先生、お手本をみせてください」と言われそうなので(笑)ここで、私の逐次の実例を紹介します。


2017年に、ヒューストンのNBC系列局KPRCのHouston Newsmakersという番組で、米国新工場をオープンした日本企業のCEOがインタビューを受け、その逐次通訳を私が担当しました(*)。

  • 事前リハーサルなし

  • 質問は直前にメールで届き、プリントアウトすらできず、質問の訳出はスマホを見ながらサイトラで対応

  • CEOの回答内容も打ち合わせできず、完全にアドリブなので、ノートテーキングにかなりペンを走らせている


それでも、

  • 最初の訳出からスピード調整

  • 間を作らない訳出スタート

によって、7分間の対話がたったワンテイクで終わり、そのまま放送されました。CEOの多少の言い直しがあったにも関わらず、おそらく「コンパクトで、リズムが良く、視聴者にもわかりやすい」と判断されたのでしょう。取り直しやカットもなくスルーで放送していただいたと思います。でも、私の語彙力や発音へのツッコミはご容赦くださいね(笑)


ご覧いただきたいのは、ノートテーキングの際に、最後の文、節の前でペンを止めている事。これにより、頭出しに空白が無くなります。スピードも、最初キャスターの解説が早口だったところを、意図的に、彼の最初の質問の訳出から、スピードを落として訳しています。その後、彼の質問の速度が徐々に遅くなり、こちらのリズムに合わせてくれるようになります。ここが肝です。


逐次通訳は、我慢比べでも、記憶力勝負でもありません。


通訳者が主導権を握り、「疲れないリズム」を会議室に定着させること、それが逐次通訳上達の最大のコツです。


*インタビュー動画はこちらからご覧いただけます。番組内容の紹介が1分強、会社紹介が1:15から、インタビューは1:52から7分間ぐらいです。




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2件のコメント


UraKen
2日前

同じ言語間での議論では、大きな声で立て板に水で相手を押し倒すタイプの人がいます。

こうした人にも、土俵が違うことをわからせる行司役が必要です。

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エディ先生
1日前
返信先

行司役=ファシリテーター(facilitator)は、同言語間でも、少人数でも必要です。この役目にはリーダーシップがあり、結論を公平に導ける力のある人が求められます。その存在が有れば、大声と圧で仕切る人を統制できるのですが。

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