トライアスロンで気づいた!「極限のレースマネジメント」が通訳業務を劇的に変える理由
- エディ先生

- 3 日前
- 読了時間: 7分

ブログ初回の自己紹介で述べましたが、私はトライアスロンを始めて13年目になります。最初の4年間は自己流のトレーニングをして、短距離のスプリント、オリンピックディスタンス(スイム1.5km / バイク40km / ラン10kmの合計51.5km)のレースに出ていたのですが、2018年から専属コーチについて本格的なトレーニングを開始、2019年からは「アイアンマン70.3(ハーフアイアンマン:スイム1.9km / バイク90km / ラン21.1km)」に出場するようになりました。当時の私のAge group(60-64歳)だと、完走までに6時間半〜7時間もかかる長丁場のレースです。
一般的にトライアスリートは「この競技はビジネスや自己管理などの『マネジメント力』を鍛えるのに最適だ」とおっしゃる方が多いようです。私自身は、マネジメント力だけでなく「トライアスロンの技術は、そのまま通訳業務(特に同時通訳)のパフォーマンス向上にも絶大なプラス効果がある」と実感しています。
今回は、過酷なレースを生き抜く「心拍数とプランのマネジメント」が、どのように通訳の現場で役立つかをお話しします!
狙ったタイムで完走する鍵は「心拍数マネジメント」
トライアスロンを狙ったタイムで完走させる力。それは「スピード」でも「根性」でもなく、長時間のレース中に起こるあらゆるハプニングを乗り越え、棄権せずに無事に終わらせる「マネジメント力」です。そして、そのマネジメントの核となるのが「自身の心拍数(Heart Rate)の管理」です。
重要なのは「心拍閾値(LT値)」のコントロール
アイアンマンレースで最も重要な数値は、走る速度ではありません。自身の「心拍閾値(Lactate Threshold、乳酸が溜まり始め、1時間以上維持できなくなる限界の心拍数)」と、「その値の70〜90%の心拍数」を保つことです。
「調子が良いから」と心拍数を無視して飛ばしてしまうと、数時間後のランの途中で足がピタッと止まり、最悪の場合はハンガーノック(エネルギー切れ)で倒れることになります。
昔の苦い失敗談
トライアスロンを始める前、ロードバイクで大阪〜嵐山間(往復120km)を走っていた時のこと。水分・補給食不足のまま高い心拍数で走り続けた結果、帰りの土手で急に意識が遠のき、草むらに倒れ込んで30分ほど失神してしまったことがあります。電解質(electrolyte)や炭水化物(carbohydrate)の欠乏でハンガーノックを起こしたのでした。あの頃はそれぞれの必要な摂取量の知識が全くなく、ポカリスエットのみに頼っていたのです。
この失敗から学び、コーチのトレーニング計画に基づいて60代前半でハーフアイアンマンを完走していた頃の私は、以下のような緻密な心拍数計画を立てていました。
種目 | 心拍閾値 | 目標心拍数 | 管理のポイント |
スイム (1.9km) | 145 bpm | 125 bpm(85%) | スタート直後のバトルで160 bpm以上に跳ね上がるのを、いかに早く125 bpmに落とせるかが勝負 |
バイク (90km) | 155 bpm | 130 bpm(85%) | 135 bpmを上限として、超えないように管理。上り坂で150 bpmを超えても、すぐ130 bpmに戻す |
ラン (21.1km) | 158 bpm | 143 bpm(90%) | 心拍閾値直下の理想的なZone 3(※)で最後まで押し切る |
※Zone 3:心拍ゾーンのひとつ。最大心拍数に対する割合を基に計算され、Zone 1(最大心拍数の50~60%)~Zone 5(同90~100%)の5つのゾーンに分類される。
Garminなどのスマートウォッチを使い、この「目標速度を維持できる心拍閾値」を上げるトレーニングこそが、レースを成功させる根幹なのです。
心拍数マネジメントを「同時通訳」に応用する!
さて、ここからが本題です。この考え方は同時通訳の現場でも全く同じことが言えます。
同時通訳を始めた初期、誰しも「15分の交代枠が長すぎる」「体力が持たない」と悩んだ経験があるはずです。通訳中に心拍計をつける必要はありませんが、意識として「100%フル稼働で話し続けるのではなく、出力を70〜80%に抑えて余裕を持つ」ことが非常に重要になります。
通訳現場で使える「省エネ&安定」テクニック
練習時から15分単位のペースを作る シャドーイングや動画での同通練習をする際、「15分集中して15分休む」サイクルを身体に染み込ませます。Apple Watch等で通訳中の心拍数を測り、15分間落ち着いてパフォーマンスを維持できるペースを探るのもおすすめです。
「張り切りすぎ」によるオーバーヒートを防ぐ 心拍数が急上昇(過度の緊張や気負い)すると、長時間の案件は持ちません。「出力を少し落とす」「語数を減らして重要部分に集中する」といった工夫で、意図的にギアを下げます。
「上手な手抜き」のための通訳技術 以前の記事でもお話しした「簡潔で短い表現」「余分な敬語・丁寧語の削ぎ落とし」「フィラー(えー、あー等)をなくす」といった技術は、まさにこの「出力を70〜80%に抑えて長丁場を乗り切る」ために必須のスキルなのです。
1時間の会議なのか、8時間の終日会議なのか。案件に応じて出力をコントロールできるようになると、終日の同時通訳でも疲労度が劇的に変わります。
アクシデントを乗り越える「4つのプラン思考(A・B・C・D)」
心拍数管理の次に重要なのが、あらかじめ「プランA・B・C・D」という4つの目標タイム計画を作っておくことです。
プランA: 自己ベスト(例:6時間15分)
プランB: 少し遅めの目標(例:6時間40分)
プランC: 安全圏の目標(例:7時間00分)
プランD: 制限時間10分前のギリギリ完走目標(例:8時間20分)
マラソンと違い、3種目をこなすトライアスロンには予想外のアクシデントがつきものです。私が過去に「プランD」に切り替えて奇跡的に完走できた、2つの修羅場をご紹介します。
エピソード①:メキシコ・コスメル“Cozumel”大会での「落車事故」
バイクの65km地点、街中に入り、急に道が狭くなり、十数台の集団クラッシュに巻き込まれ、アスファルトの上を何と数メートルも滑走。バイクの靴にはクリート(cleet)という金具が付いていて、脚で漕ぐ力のロスをなくすためにペダルと靴が密着しており、足首をひねらないと外れない仕組みになっています。アクシデント時は、このクリートを外す余裕がないため、靴がペダルを噛んだままバイク本体と身体が離れずに転倒します。結果身体の左側すべて、つまり肩から脛まで大きく擦りむきました。応援していた人たちが、「救急車呼ぼうか?」と叫んでいたので、見た目はかなり重症だったかもしれません。
「もうダメか……」と棄権が頭をよぎりましたが、立ち上がり、骨折していない事、擦り傷はかなり大きいもののあまり出血していない事を確認し、即座に「プランD(完走最優先ペース)」へ頭を切り替えました。
スイムとバイクの前半がプランA以上の自己ベストペースだった貯金もあり、プランDの速度を守り切った結果、なんとプランBに近い6時間45分で完走! 年齢別5位に入賞し、世界選手権(ワールドチャンピオンシップ)の出場権まで獲得してしまいました。ゴール後はメディカルベイに連れていかれて、包帯ぐるぐる巻きになりましたが(笑)
エピソード②:フィンランド世界選手権での「極寒のパニック」
北欧は8月なのに外気温15℃、水温12℃という、トライアスリートには地獄のような冷たさ。スタート直後、あまりの冷たさに心拍数が爆上がりして息ができなくなり、200mぐらいでカヤックにしがみき、休む。ここから「棄権」の文字が何度も頭を駆け巡りました。「でも一生に一度のワールドチャンピオンシップだ!落ち着け!」と。
何度もカヤックで休み、心拍数を落として、残り500m。ここでやっと心拍数が落ち着いたのです。でもスイムの制限時間がせまる!わずか5分前にフィニッシュ!僅差で生き延びたので、「棄権」から「プランD」に変更して、ここから怒涛の巻き返しを図ります。
バイクでかなりスピードを上げたのですが、後半についに冷たい雨が降り始めます!そこから1時間以上も体温を奪われ続ける極寒のバイク、意識が飛びかけたランへのトランジションのベンチ!激しい上り坂……次々と襲いかかる試練を「プランDのタイム管理」だけで冷静に乗り切り、制限時間45分前(7時間45分)で感動の完走を果たしました。
もし「プランA」だけでレースに臨んでいたら、スイムでメンタルが折れて間違いなく棄権していたでしょう。
まとめ:自分のパフォーマンスを「数値化・客観視」しよう
通訳の仕事もまったく同じです。
自分の通訳のスピード、体力、負荷などのキャパシティを事前に把握し、トラブルが起きた時の「プランB、CやD」を用意しておくこと。それができれば、過度なプレッシャーで潰れるリスクは大幅に減らせます。
皆さんもトライアスロンとまではいかなくても、日頃のスポーツやトレーニングの考え方を通訳学習に取り入れて、相乗効果を狙ってみてはいかがでしょうか?
by エディ先生
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トライアスロンの競技がすごく科学的に管理されているのに驚きました。
自己ベストからギリギリ合格の4つに分ける4つのプラン思考は、
人生の各場面に応用できる考えだと思います。