【CPM入門(4)】マイルストーンでプロジェクトを管理
- エディ先生

- 3 日前
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更新日:3 日前

前回まで、クリティカルパス法を紐解きながら、プロジェクトのタスク、その所要期間、そしてタスク間の依存関係を理解し、それらを結び付けた最長工程が「クリティカルパス」であることを説明してきました。
結婚式の事例では、論理的な解説を簡素化するため、余裕期間(Float)を”0”日としていました。しかし実際のプロジェクトでは、必ず何らかの遅延や手戻りが発生します。そのため、各タスクには通常、数日間の余裕期間を加えた工程を計画します。
マイルストーン設定
結婚式プロジェクトのように全体の期間が21日程度であれば、1つの遅れが最終完了日に及ぼす影響は比較的すぐに判断できます。しかし、例えば工期が2年に及ぶ建設工事の場合、余裕期間を取ってあるとはいえ、最終竣工日を維持できるかどうかを、毎日2年分のタスクを横並びに示した表(ガントチャート:Gantt Chart)だけで把握するのは困難です。
そこで、数多くのタスクをいくつかの重要な通過点でグループ化し、それぞれの通過点に指標を設定します。プロジェクトマネジメントでは、これを「マイルストーン」と呼びます。
「Milestone(マイルストーン)」という言葉は、ローマ帝国が主要街道に1マイルごとに設置した標石に由来します。後に鉄道や道路でも起点からの距離を示す標石(日本では一里塚)として用いられるようになりました。プロジェクトマネジメントでも同様に、「重要な中間目標地点」を意味する言葉として使われています。
マイルストーン・プランニングとは、こうした重要なポイントを特定し、それらが互いにどのように関係しているかを整理し、プロジェクト全体の出来事として順序立てて管理することです。
巨大で数年を要するプロジェクトでは、最終完了日だけを目標としていると、途中で発生する遅延や手戻りなどが最終完成日にどの程度影響するのかを瞬時に把握することができません。その結果、遅延への対応策や、それにかけるべきコストの判断も難しくなります。
そこで、全工程をいくつかの区間に分け、それぞれの重要な通過点をマイルストーンとして設定し、各マイルストーン間のタスクの進捗を重点的に管理するのです。
プロジェクト計画の立て方には、担当者によって様々なタイプがあります。
開始日からタスクの所要期間を積み上げ、完了日までの工程を引くタイプ
完了日を先に設定し、そこから逆算して各タスクの時間を割り当てるタイプ
完了日を明確に定めず、漠然とした目標に向かって進めるタイプ
しかし、どの方法であっても、初期工程で問題が発生すると、完了日がどれだけ遅れるのか、予算がどれだけ超過するのかを即座に判断することは困難です。
もしあなたがプロジェクトを発注する側で、開始から2か月後に「2週間の遅延が発生した」と報告を受けたとします。そして完成予定が2年後だった場合、まず知りたいのは次のようなことではないでしょうか?
最終完成は何日遅れるのか
その遅れは自分にどれだけの金銭的影響を与えるのか
今すぐコストをかけてでも2シフト体制にし、遅れを取り戻すべきか
こうした判断を迅速に行うために必要なのが、マイルストーンによる管理なのです。
建設プロジェクトにおけるマイルストーンの例
通常、マイルストーンは期間ゼロ(0日)のタスクとして設定されます。工程の区切り、契約上の節目、支払条件、引渡条件、法規制や検査のタイミングなどと連動して設定されます。以下は、オフィスビル建設プロジェクトの例です。
# | マイルストーン | 意味 |
M1 | 基礎工事完了 Foundation Completed | 上部構造着手可 |
M2 | 鉄骨建て方完了Steel Erection Completed | 外装工事開始可 |
M3 | 建屋外装工事完了 Exterior Work Completed | 内装工事全面展開可 |
M4 | 設備試運転完了 MEP Run-off Completed | 検査申請可 |
M5 | 竣工・引渡し Construction completed/Hand-over | 事業開始可 |
マイルストーン前後のタスクの例
ここでは、最初のマイルストーンである「M1 基礎工事完了」の前後のタスク関係を考えてみます。説明を簡単にするため、各タスクの所要期間は一律6日とします。下図で「タスク名」欄にある「敷地測量」から「基礎検査」までが基礎工事のタスクであり、その終了日に「基礎工事完了」という最初のマイルストーン(★印)が設定されます。
これらの情報をMicrosoft Projectなどのプロジェクト管理ソフトウェアに入力すると、下図のようなガントチャート(Gantt Chart)が生成されます。タスク間の矢印は Finish-to-Start(F-S)の依存関係を示しており、「前の工事が終わらなければ次の工事を開始できない」という関係でリンクされています。

これらすべてのタスクには通常何日かの余裕期間が入っています。日々の管理でタスクの進捗度を入力すると、進捗率が%で表示されます。タスクが遅延し余裕期間がほとんどなくなる、あるいはゼロになる場合、システムはアラートを発信します。プロジェクト管理ソフトのPrimavera P6やMicrosoft Projectでは、マイルストーンに対するFloat(余裕期間)やクリティカル度、遅延予測などが自動的に色分けされて表示されます。
Float > 5日:緑
Float 1~5日:黄
Float 0日:赤
遅延:赤+警告アイコン
また現場責任者には、マイルストーンのFloatが1~5日、さらにゼロになった時に、以下のアラートが発信されます。
黄色:関係業者に事前警告
赤色:増員、残業、工法変更、順序入替
これを受けた現場の責任者は、あらゆる手段を講じて直近のマイルストーンを動かさないよう対応します。もしこのマイルストーンが遅れると、その後のすべてのマイルストーンが連鎖的に影響を受け、2年後の最終竣工日まで遅延してしまうからです。
マイルストーンを動かすには「合意」が必要
マイルストーンを遅らせるには、複数の関係者の同意と承認が必要になります。建設プロジェクトでは、一般的に以下の関係者が関与します。
ゼネコン:工事完了報告
施主:出来形承認
設計者:設計適合確認
検査機関:検査合格
マイルストーンは連鎖する
マイルストーンは、ドミノ倒しのように連動しています。
マイルストーンが「基礎完了 → 鉄骨完了 → 外装開始 → 内装開始 → 設備試運転 → 竣工」と設定されている場合に、例えば、2つめの「鉄骨完了」が5日遅れると、「外装開始 → 内装開始 → 設備試運転 → 竣工」がすべて5日遅れます。これがマイルストーン遅延の恐ろしさです。
なぜ余裕期間が必要なのかも、ここで理解いただけたと思います。余裕期間は、単なる作業の遅延吸収だけのために設定するのではありません。
台風、降雪などの天候リスク(通常台風シーズンには、あらかじめ数日の余裕期間を設定します)
検査不合格時の再対応
手直し工事
Float(余裕期間)とは、こうした事態を吸収するための戦略的余裕なのです。
なぜ多くの現場でマイルストーンが守れないのか
最初に工期を約束するときに、施主からの強い要請があると、つい無理な竣工日をコミットしてしまいがちです。しかし、長期の工事やプロジェクトでは、必ず不慮の遅延が発生するため、余裕期間ゼロに近い工事は竣工日を守ることができません。これは、余裕を削ること=管理能力が高いという大きな誤解から生まれます。実際には逆です。余裕を戦略的に確保できる人こそ、最も優秀なプロジェクトマネージャーなのです。
これはオフィスでのプロジェクトでも同様で、上司に迫られて無理な完成日を約束させられると、せっかくチームが成し遂げた努力に報いられないような完成日の遅れを出す結果になって、評価を下げてしまいます。
大規模プロジェクトではさらに複雑になる
基礎工事の遅れ → 3つ先のマイルストーン遅延 → コースター車両搬入スケジュール変更 → 試運転変更 → スタッフ教育変更 → 開園延期
このように、非常に複雑な遅延構造が生まれます。そのため、最初のマイルストーンを動かすという選択肢はほぼ存在しません。その場合、
2シフト体制で取り戻すコストはいくらか
その費用を誰が負担するのか
といった議論が必要になります。
スケジューラーという職種
第1回の解説を読まれたとき、「スケジューラーって本当に必要なの?」と思われた方もいるかもしれません。しかしここまで見てくると、この役割が非常に重要であることが分かると思います。
また、何千ものタスクを抱える巨大プロジェクトでは、Primavera P6やMicrosoft Projectのような専門のソフトウェアなしには管理が成立しないのも事実です。
日常業務でも使えるマイルストーン管理
今回は建設プロジェクトを例にマイルストーンの重要性を説明しましたが、この考え方は日常のビジネスでも十分応用できます。例えば
数百人の顧客、ベンダー、関係省庁などを招待する大きな社内イベントの開催
複数のコールセンターを1か所に集約させるプロジェクト
会社のITの旧基幹システムを2年間でSAPなどのERP(Enterprise Resource Planning 統合基幹業務システム)に転換する巨大プロジェクト
などです。
こうした大きなプロジェクトは、プロジェクト管理ソフトウェアでマイルストーン管理を行うことができます。期間が短く、タスク数が限定的ならエクセルでガントチャートを作成することも可能です。この習慣を身につけると、やがて表を作らなくても、頭の中で自然とプロジェクトのスケジュールを描けるようになります。
クリティカルパス法に基づいたプロジェクトマネジメントについて4回にわたる連載で解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。皆さんの日常のプロジェクト管理のアップグレードの一助となれば幸いです。
by エディ先生
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欧米の人は難しい作業にたいして、道具を工夫して対応しようとするのに対して
日本人は個人/チームの努力や「技」の熟度で対応しようとする傾向がある
という話を思い出しました。